【接骨院開業の実収入】1人開業の収支から経営の実態まで徹底解説

柔道整復師

柔道整復師として経験を積み、いよいよ独立開業を考えている方も多いのではないでしょうか。

「自分の治療方針で患者さんを診たい」「経営の自由度を高めたい」など、開業の動機は様々でしょう。

しかし、実際の収入や必要経費については、なかなか具体的な情報を得る機会が少ないのが現状です。

今回は、1人開業(受付パート1名)の場合の実際の収支について、リアルな数字とともにお伝えしていきます。

現実の月収を確認しよう

まずは収入面から見ていきましょう。

1人開業の接骨院で、しっかりと集患できている場合でも、月の総収入は80万円から100万円程度が現実的な数字です。

この金額は、決して少なくはありませんが、ここから様々な経費が引かれていくことを理解しておく必要があります。

収入の内訳を見てみると、療養費(保険診療)からの収入は30万円から40万円程度です。

これは、レセプト請求可能な症例が限られていることや、支給基準の厳格化により請求が通りにくくなっていることが主な要因です。また、患者負担分(3割)の未収リスクも考慮する必要があります。

自費診療からは40万円から50万円程度の収入が見込めます。

美容整体やコース診療、運動指導などを提供しても、地域での価格競争もあり、これ以上の収入を安定的に確保するのは容易ではありません。

これに加えて、物販収入として月5万円から10万円程度が見込めますが、これはテーピングやサポーターなどの販売によるものです。

意外と大きい固定費の実態

ここからが重要なポイントです。

上記の収入から、実に多くの固定費が差し引かれていきます。

まず人件費関連として、15万円から20万円程度が必要となります。

これには、パート受付の給与(10万円から12万円)に加え、社会保険料の事業主負担分や労働保険料も含まれます。

給与を抑えすぎると人材の確保・定着が難しくなるため、この程度の人件費は必要な投資と考えるべきでしょう。

テナント関連の費用も大きな負担となります。

家賃、共益費、水光熱費を合わせると20万円から25万円ほどになります。

駅前や繁華街など好立地であれば、さらに高額になることも珍しくありません。

また、院賠償保険や所得補償保険などの各種保険料で8万円から10万円、広告宣伝費として5万円から8万円が必要です。

さらに、医療材料や衛生用品などの消耗品費として3万円から5万円程度の支出も欠かせません。

見落としがちな院長の社会保障費

特に注意が必要なのが、院長自身の社会保障費です。

国民健康保険、国民年金、国民年金基金などで、月々10万円から12万円ほどの支出が必要となります。

開業前は会社負担だった部分も、すべて自己負担となることを忘れてはいけません。

これらの固定費を合計すると、毎月60万円から80万円にもなります。

この金額は、立地や規模によって多少の変動はありますが、安定した経営を続けるために必要な最低限の支出と考えてよいでしょう。

実質的な手取りはどうなるのか

結果として、月の総収入80万円から100万円から、固定費60万円から80万円を差し引くと、実質的な手取りは20万円から40万円程度となります。

これは、開業から1、2年以上経過し、ある程度軌道に乗った場合の数字です。

開業直後はさらに厳しい状況となります。

最初の半年から1年は、月の総収入が40万円から50万円程度に留まることも珍しくありません。

それでも固定費は変わらず必要なため、実質的な手取りがマイナスとなることも多いのです。

そのため、開業時には最低でも6ヶ月分、つまり400万円から500万円程度の運転資金を確保しておくことが必要不可欠です。

この運転資金がないと、経営が軌道に乗る前に資金繰りが立ち行かなくなるリスクが高まります。

経営を安定させるためのポイント

では、このような厳しい状況の中で、どのように経営を安定させていけばよいのでしょうか。

まず重要なのは、保険診療への依存度を下げることです。

自費診療メニューを充実させ、予防やコンディショニング分野を強化していく必要があります。

ただし、これも地域性や競合状況を考慮した慎重な価格設定が求められます。安易な価格設定は、長期的な経営の安定性を損なう可能性があります。

次に、固定費の削減も重要な課題です。開業時の設備投資を必要最小限に抑え、広告費の効果を細かく測定しながら最適化を図っていく必要があります。

特に、開業直後は広告費の使い方を誤ると、貴重な運転資金を急速に消費してしまう危険があります。

また、業務のデジタル化も検討に値します。

予約管理システムの導入やLINEを活用した患者さんとのコミュニケーションなど、効率的な運営を心がけることで、人件費の抑制にもつながります。

長期的な視点での差別化戦略

経営を安定させるためには、長期的な視点での差別化戦略も欠かせません。

スポーツ、美容、高齢者向けケアなど、特定の分野に特化することで、地域での認知度を高めていくことが重要です。

また、継続的な技術研鑽も必要です。患者さんの満足度を高め、リピーターを増やすためには、確かな技術力が不可欠だからです。

研修会への参加や新しい技術の習得など、自己投資は惜しまないようにしましょう。

将来を見据えた展開も重要です。例えば、運動指導のオンライン化やフォローアップのデジタル化など、時代に即したサービス展開を図ることで、新たな収益源を確保できる可能性があります。

また、企業の健康経営支援や産業医との連携など、BtoBの展開を視野に入れることも一つの選択肢となります。

開業を考える方へのメッセージ

接骨院の開業は、確かに以前に比べて厳しい環境となっています。

療養費だけでの経営は現実的ではなく、自費診療を含めても月収100万円程度が現実的な上限となります。

そこから固定費や社会保障費を差し引くと、手取りは予想以上に少なくなるのが現状です。

しかし、これは決して開業を諦める理由にはなりません。

現実をしっかりと理解した上で、適切な準備と戦略を立てることで、安定した経営は十分に可能です。

重要なのは、「接骨院を開けば患者が来る」という考えから脱却し、医療人としての専門性と経営者としての視点を両立させること。

そして、変化する医療環境に柔軟に対応しながら、地域に必要とされる存在となることです。

開業は確かに大きな挑戦です。

しかし、その挑戦に向けて、現実を見据えた準備を進めることで、必ず道は開けるはずです。

夢に向かって一歩を踏み出す勇気と、現実を直視する冷静さ。

この両者のバランスを取りながら、開業への道を進んでいただければと思います。

Goshi Tsuboi

Writer : Goshi Tsuboi

柔道整復師からWebエンジニア・マーケターへ異業種転職。
現在はIT企業でWebディレクターとして活動中。
様々なプロダクトのWeb領域を担当。